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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2752号 判決 1972年11月29日

原告

鬼塚ハルノ

被告

小林其治

ほか一名

主文

一  被告は連帯して原告に対し金八六万六六二八円およびこれに対する昭和四六年四月一七日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告らとの、各自の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは各自原告に対し五、六〇八、九九五円およびこれに対する昭和四六年四月一七日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

訴外鬼塚優は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四五年九月三日午後四時五〇分頃

(二)  発生地 東京都板橋区東新町一丁目一一番四号先の川越街道上

(三)  被告車 事業用普通貨物自動車(ニツサン・キヤブオール・ロングボデイ。足立一き三〇六三号)

運転者 被告小林章俊

(四)  鬼塚車 自動二輪車(ホンダCB三五〇。足立い四三二六号)

運転者 訴外優

被害者 訴外優

(五)  態様 被告車の左側面と鬼塚車とが接触し、鬼塚車もろとも訴外優は路上に転倒。

(六)  被害者訴外優は頸椎骨々折・頸椎損傷により即死した。

二  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(1)  被告小林其治は、被告車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(2)  被告小林章俊は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

即ち被告車は川越街道を成増方面から池袋方面に向つて時速約三〇キロメートルで進行中、同一方向に同一速度をもつて進行していた被害者運転の鬼塚車に自車の左側部を接触せしめて、これを転倒させたものである、即ち被告章俊に側方不注意、ハンドル(ブレーキ)操作不適当の過失があつた。

三  (損害)

(一)  葬儀費等 計金一三万七〇八二円

原告は、訴外優の事故死に伴い、次のとおりの出捐を余儀された。

葬式費用 金一〇万八〇八二円

告別式法要費 金一万円

初七日法要費 金七〇〇〇円

四九日法要費 金七〇〇〇円

百カ日法要費 金五〇〇〇円

(二)  逸失利益 金七二七万一九一三円

訴外優が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり金七二七万一九一三円と算定される。

(死亡時) 二〇歳

(推定余命) 五〇・一八年(平均余命表による)

(稼働可能年数) 四〇年

(収益) 年間金六七万二〇〇〇円

(控除すべき生活費) 右収益の二分の一

(毎年の純利益) 金三三万六〇〇〇円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

原告は右訴外人の唯一の相続人である。よつて、原告は親として訴外人の賠償請求権を相続した。

(三)  原告の慰藉料 金三〇〇万円

訴外優は原告の次男であり、五年間にわたり大工の年季奉公をし、昭和四五年四月に年季が明けて独立できるようになつたが、将来にそなえて塗装工の技術を身につけるべく同年六月から須藤工務店に塗装工として勤めていた。原告は同年五月から訴外優と親子水入らずの生活に入つた、やさきだけに、同訴外人を失つた悲歎は大なるものがあつた。この精神的苦痛を慰藉するためには金三〇〇万円を相当とする。

(四)  損害の填補 金五〇〇万円

原告は自賠責任保険分として既に五〇〇万円の支払いを受け、これを以上の損害に充当した。

(五)  弁護士費用 金二〇万円

以上により、原告は被告らに対し賠償請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、弁護士会所定の報酬範囲内で、原告は金二〇万円を、支払うことを約した。

四  (結論)

よつて、被告らに対し、原告は差引残金五六〇万八九九五円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年四月一七日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

五  被告側主張の免責の抗弁は否認。

第四請求原因に対する被告らの認否

一  請求原因第一項は認める。

二  同第二項中、

(1)  被告其治が被告車を業務上に使用して、その運行供用者であつたことは認める。

(2)  被告章俊に過失があつたとの点は否認する。

三  同第三項は不知。但し(四)の自賠責保険金五〇〇万円を受領済みである点は認める。

四  同第四項は争う。

五  免責の抗弁

本件事故は、鬼塚車が被告車の左側面に飛び込むような形で接触して来たために発生したものであり、訴外優の一方的過失により発生した事故である。また被告両名ともに被告車の運行に関し注意を怠らなかつた。更に被告車に構造上の欠陥又は機能の障害もなかつた。従つて被告其治は自賠法三条但書により免責されるべきである。

いずれにせよ被告其治は右免責により、被告章俊は過失がないことにより、本訴請求は棄却されるべきである。

理由

一  (事故の発生)

請求原因第一項の事実は当事者に争いがない。

二  (責任原因・免責)

(一)  被告其治が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

(二)  被告章俊の過失によつて本件事故が惹起されたものか否かにつき検討する。

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認めることができる。

昭和四五年九月三日午後四時五〇分頃たまたま雷を伴う豪雨襲来の前触れとして大粒の雨が降り出して来た頃であり、被告章俊の運転する被告車(車幅は一・九五五米。車長五・七一米)が通称川越街道(片側三車線)の第二通行帯を成増方面から池袋方面に向つて時速三〇粁位で進行して来たところ、同一方向に被告車の左側を走行中の訴外優の運転していた鬼塚車(車幅は〇・七七米、車長二・〇九米)の右側と被告車の左側面とが接触し、この接触により同訴外人が鬼塚車もろとも路上に(同訴外人は頭を歩道にのせ)転倒、頸椎骨々折、頸椎損傷を受け、死亡した。その接触音を左後部に聞いた被告章俊は右接触を感知するや直ちにブレーキをかけるとともに被告車を左側端に寄せて停車せしめた。右接触地点附近から被告車の右停車した地点附近までの距離はほぼ一五メートル位であつた。この事故態様の骨子は別紙見取図のとおりである。

本件事故のあつた川越街道はアスフアルトで舗装され、車道幅員は約一六米七〇糎(なお片側三車線に区分されてある)、其の両側の歩道は約四米二〇糎の幅員を有し、本件現場の道路は直線であるが北西の成増方面に向つて約一〇〇米の地点からは左方に、ゆるやかにカーブしていて、視界を妨げる障害のない地点であつた。被告車の荷台下部の縦根太(荷台の底面の縦枠)に接触した跡があり、左側車枠(フレーム)のサイド・メンバー(横粋)に二ケ所フレームと荷台を結合するU型ボルトの下部ならびに左後輪リーフスプリング(板ばね)の前方下部や左後輪の前方フエンダー等に接触痕があり、いずれも原告車ないしは訴外優が接触したと認められる。地方、鬼塚車は、ガソリンタンクの上面が大きく凹損し、セイフテイガード右側が前に押しまげられ、その左側が左側に転倒した際、路面に接触したことにより後方に押し曲げられており、左右バツクミラーはハンドルの取付部から折損していて、右ハンドルのグリツプのゴム付が破損し、ハンドルのわん曲部に被告車の塗料が付着していた。

右認定によれば、本件事故発生時には雷に伴う豪雨襲来の前触れとして大粒の雨が降つてきたということであるから訴外優が、この豪雨を一刻でも早く避ける意図を以てオートバイのスピードをまして、同一方向に進行中の被告車の側面を避け得られるとの判断の下に進行し、鬼塚車が自から進んで被告車に接触し、本件事故を惹起したものと推測することも、できないわけではない。しかしながら、被告車が時速三〇粁位で第二通行帯を直進して来て、かつ、そのまま特段の事情もなく直進を継続するにしては、左側後部で接触し、この時まで何も気付かず走行していた以上、接触地点附近から僅か一五米位で停車し、しかも左側端(第二通行帯から第一通行帯)に寄せて停車できていることに、あまりにも俊敏すぎて、時速と右停車とは相互関係からみて、無理があるといい得る。却つて、被告車の運転者たる被告章俊が左側方の安全を確認しないまま左側へ若干減速しながら被告車を走行せしめたところ、地方鬼塚車の運転者たる訴外優が被告車の動静に十分配慮しないまま鬼塚車を走行せしめたために本件事故が惹起されたものと推認するのを相当とする。鬼塚車側と被告車側との双方の過失によつて本件事故が発生したものであり、訴外優が死亡して事実の解明が不十分である事情も加味し、損害賠償額算定上掛酌すべき過失相殺割合としては、鬼塚車側が三五%、被告車側が六五%と解するのを相当とする。

以上の次第であるから被告側主張の免責の抗弁は採用できない。

結局被告基治は自賠法三条により、被告章俊は民法七〇九条により、連帯して本件事故から生じた人身損害のうち六五%相当額を賠償する責任がある。

三  (損害)

(一)  葬儀費等 計金一三万七、〇八二円

〔証拠略〕によれば、訴外優の本件事故死に伴い、葬式を行い、その後の法要も行われたことが認められる。その費用として、その社会的地位等からみて、原告主張のとおり、原告が金十三万七〇八二円を支出したものと推認するのを相当とする。

(二)  逸失利益 金五七六万五、四二四円

〔証拠略〕によれば次の事実を認め得る。即ち訴外優は、本来、大工であり、更に塗装も身につけるべき須藤塗装店に勤務し、一〇月金五万六、〇〇〇円の収入を得ていたこと、当時満二〇才の健康な男子であつたから、右の程度の収入を得る稼働年数としては四〇年間と推認するのを相当とする。なお控除すべき生活費として、右収入の二分の一をもつて相当と認める。これを前提に、中間利息の控除をライプニツツ方式(法定利率による複利年金現価表)により算出すると金五七六万五、四二四円になり、これを逸失利益と認めるのを相当とする。なお原告が唯一人(訴外優の母として)の相続人であり、これを相続したものと認められる。

56,000円×12月×1/2×17.159=5,765,424円

(三)  慰藉料 金三〇〇万円

原告は夫に先だたれ、一人前になつて来た次男訴外優の本件事故死による精神的苦情を慰藉すべき額としては、前認定の諸事実を斟酌して金三〇〇万円をもつて相当とする。

(四)  損害の填補 金五〇〇万円

原告が自賠責保険より金五〇〇万円を受領していることは、当事者間に争いがない。

(五)  差引計算 残金七八万六、六二八円

以上の認容されるべき総損害額は金八九〇万二、五〇六円であり、これを過失相殺して被告側の賠償すべき六五%をかけると金五七八万六、六二八円となる。これから右填補額金五〇〇万円を控除すると残額は金七八万六、六二八円となる。

(六)  弁護士費用 金八万円

〔証拠略〕によれば、原告が原告訴訟代理人弁護士に本訴の提起と追行とを委任し、その費用として金二〇万円を支払う旨を約していることが認められる。しかし右認容されるべき額と訴訟の全経過からみて被告側に負担せしめるべき額としては金八万円をもつて相当と認める。

(七)  以上差引残として認容額は金八六万六、六二八円となる。

四  (結論)

よつて被告らは連帯して原告に対し金八六万六、六二八円およびこれにつき訴状送達の翌日である昭和四六年四月一七日(この点は当裁判所に顕著である)以降右支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務がある。この義務の履行を求める限度で認容し、その余を失当として棄却する。民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

見取図

<省略>

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